イプシロンロケット(Εロケット、英訳:Epsilon Launch Vehicle)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とIHIエアロスペースが開発中の、小型人工衛星打ち上げ用固体ロケット。当初は次期固体ロケット (じきこたい - )の仮称で呼ばれていた。
概要 [編集]
イプシロンロケットは、2006年(平成18年)度に廃止されたM-Vロケットの後継機として2010年(平成22年)から本格的に開発が始まっている固体ロケットである。M-VロケットとH-IIAロケットの構成要素を流用しながら、全体設計に新しい技術と革新的な打ち上げシステムを採用することで、簡素で安価で即応性が高くコストパフォーマンスに優れたロケットを実現することを目的に開発されている。M-Vロケットの約3分の2の打ち上げ能力と約3分の1の打ち上げ費用(30億円以下)を実現することが具体的な開発目標である。
イプシロンロケットの開発は2段階に分かれており、2013年(平成25年)度に打上げ予定の第1段階のイプシロン実証機はE-X、2017年(平成29年)度以降に打ち上げ予定の第2段階となる改良型はE-Iと呼ばれている。
E-Xの標準型の機体は3段から構成される。第1段にはH-IIAロケット等に使用されているSRB-Aを改良したものを、第2段と3段にはM-Vロケットの第3段とキックステージを改良したものを流用する(構成と諸元を参照)。E-Iの開発では、E-Xの開発と運用の成果を踏まえて地上支援設備を含めたシステム運用のさらなる簡素化や機体コンポーネントの抜本的な低コスト化を進め、E-X以降の打ち上げニーズの変化にも対応できる機体とする(将来性を参照)。
イプシロン (Ε) の名前は公式には「Evolution & Excellence(技術の革新・発展)」「Exploration(宇宙の開拓)」「Education(技術者の育成)」に由来する。ラムダ (Λ) ロケット・ミュー (Μ) ロケットなど日本で開発されてきた固体ロケット技術を受け継ぐ意味を込めギリシア文字が用いられた[1]。正式な名称のない頃から、一部報道で名称は「イプシロン(エプシロン)ロケット」が有力候補とされていた[6]。また、ISASのOBなどが参加するトークライブなどでは、「いいロケット」の駄洒落で「Eロケット」→「イプシロンロケット」になったと言う話が公式決定前からアナウンスされていた。
開発経緯 [編集]
開発背景 [編集]
「M-Vロケット#M-Vロケットの廃止とイプシロンロケット」も参照
M-Vロケットは、宇宙科学研究所(ISAS、現JAXA宇宙科学研究所)により固体ロケットの研究と科学衛星打ち上げ用として開発されたが、搭載衛星にロケットを最適化できるという利点はあるものの、打ち上げには約80億円の高額な費用と約3年の製造期間が必要で、本来は簡素で安価で即応性が高い固体ロケットの利点を生かしきれていなかった。またISASの年間予算は約200億円と日本の宇宙開発予算の中では比較的低額であり、高額なM-Vロケットにより打ち上げ回数が限られていた。
このような中でISAS内部では、開発期間が短い安価で小型の衛星を多数打ち上げるべきだという要望があり、より簡素で安価で即応性が高い小型のロケットの実現を目指して、M-Vロケットの1段目を省略し第2段からキックモータまでの3段式とし、ノーズフェアリングに集中させた電子装備を回収・再使用する改良開発案(M-V Lite)[7]や、M-Vロケットの機体構成・製造プロセス・運用システムを見直し、搭載電子機器の統合・簡素化を行い、第1段にCFRP一体型モーターケースを採用する改良開発案(M-VA)[8]を模索していた。なお小型衛星の打ち上げ手段としては、H-IIAロケットで打ち上げる大型衛星への相乗りという方法もあるが、惑星探査などの宇宙科学ミッションでは特殊な軌道が必要となる例や打ち上げ時期が限定される例が多数あるため、相乗りではなく独自の小型ロケットが必要とされている[1]。
このような状況で、2006年9月のM-Vロケット7号機による太陽観測衛星ひので(SOLAR-B)の打ち上げの後、2010年の金星探査機あかつき(PLANET-C)の打ち上げまで約4年の期間が空くことから、4年間の射場の維持費よりもPLANET-CをH-IIAロケットで打ち上げたほうが安くなるというJAXAの判断で、M-Vロケットは7号機を最後に廃止となった。(8号機は打ち上げ済み。)
これらの事情と、日本の固体ロケット技術の維持という目的から、新たに小型の固体ロケットが開発される事になった。2006年7月26日にはM-Vロケットの廃止が発表され、その時に発表されたSRB-AとM-34を基本とする2段式の次期固体ロケット(イプシロンロケット)の開発計画[9]については、開発費用を抑えることを目的に既存のロケットの構成要素を接木して失敗したJ-Iロケットを連想させる事から、松浦晋也等の一部の識者から批判的な意見が表明され、M-Vロケットの存続やM-V Liteの実現を求める声が上がった[10]。
開発開始 [編集]
2007年(平成19年)8月の宇宙開発委員会において「開発研究」フェーズへの移行が認められたことで次期固体ロケット(イプシロンロケット)の開発は新たな局面に入った[11][12][13]。認められた開発計画では当初の計画から3段式に変更され、M-Vロケットの既存モーターを基に新規開発した第2段と第3段を全体設計に最適化させ、新技術と革新的な打ち上げシステムを採用して運用性を向上させることで、コストパフォーマンスの高いロケットを実現させる計画[14]であったことから、批判的な意見も聞かれなくなった。2008年1月時点では2012年(平成24年)度に初号機打ち上げ予定となっていたが[15][16]、その後の「開発」フェーズへの移行が遅れたため初号機打ち上げは2013年度冬以降に順延される見通しとなっていた。
2010年(平成22年)に次期固体ロケットの名称が「イプシロンロケット」に決定し、GXロケットの開発中止決定後の8月には「開発研究」フェーズ時点より既存技術を活用する開発案に修正された上で[17]「開発」フェーズへの移行が認められたことから本格的にE-Xの開発が始まった[5][18]。これにより「開発研究」フェーズ時点の開発案をそのまま進めるより開発期間が短くなり2013年度夏に初号機で惑星宇宙望遠鏡SPRINT-Aを打ち上げられる予定となった。また、開発費は安くなったが、打ち上げ単価の低減の度合いが少なくなったため、修正後の開発案で永続的に打ち上げ続けると仮定するならば、11回目の打ち上げまでの総費用(開発費+運用費)は安価となったが、それ以上打ち上げる場合は高価となった。開発費は205億円で、一機当たりの打ち上げ費用は当初約38億円。低軌道(近地点高度250km、遠地点高度500km)への打ち上げ能力は1,200kg、太陽同期軌道(近地点高度500km、遠地点高度500km)への打ち上げ能力は450kgの予定である。平成29年度以降に打ち上げるE-Iで「開発研究」フェーズで検討されていた開発計画を実現することにより30億円以下での打ち上げを目指す[1][5]。
射場の選定 [編集]
イプシロンロケットが「次期固体ロケット」の仮称で呼ばれていた初期の完成予想図では、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる様子が描かれた物があったが、推進剤を充填した第1段のSRB-Aの陸上輸送が法制上不可能であったため、射場が内之浦に決定していたわけではなかった。M-Vロケットでは第1段を2分割し搬入することで法規制を回避しており、H-IIAではSRB-Aの推進剤を種子島宇宙センター内の充填設備で充填することで法規制を回避していた。イプシロンロケットでこれを回避するには、新たな方法で推進剤を充填した第1段を種子島から内之浦へ運搬するか、内之浦に充填設備を新設する必要があり、様々な検討が行われた。またイプシロンロケットを種子島から打ち上げるという案も検討されていたが、この場合は内之浦宇宙空間観測所の存続自体が問題となる可能性や飛行経路の関係で軌道投入能力が大きく減少するなどの問題があった。
2008年に輸送問題は解決し[19]、JAXA内で、内之浦宇宙空間観測所での射点をラムダ射点付近に新造する案[20]、ミュー射点とラムダ射点の間に新造する案[21]、ミューランチャを改修して使用する案の3つが検討され始めた。その後、射場は内之浦宇宙空間観測所ミューセンターが有力となったが、本格的にイプシロンロケットの開発が始まった2010年になっても射場が正式に内之浦に決定したわけではなかった。このような状況の中、鹿児島県の宇宙開発促進協議会は毎年国に提出している要望書に、次期固体(イプシロン)ロケットを内之浦から打ち上げる要望を盛り込むなどしていた[22]。
2011年1月12日、最終的にJAXAがイプシロンロケットの射場を内之浦宇宙空間観測所とするとして事業を促進させていくと発表したことで、射場は内之浦宇宙空間観測所内のミュー射点に絞られることとなった[2][3]。
E-Xの構成と諸元 [編集]
| 主要諸元一覧[5] |
全長 |
24.4 m |
代表径 |
2.5 m |
全備質量 |
91.0 t |
ペイロード |
1,200 kg / LEO (250km x 500km)基本形態 700kg / LEO (500km 円軌道)オプション形態 450kg / SSO (500km 円軌道)オプション形態 |
段数(Stage) | 第1段 | 第2段 | 第3段 | オプション | フェアリング (投棄分) |
使用モータ |
SRB-A3 |
M-34c |
KM-V2b |
小型液体ステージ (PBS) |
- |
各段質量 |
74.7 t (フェアリング非投棄分含む) |
11.6 t |
3.0 t (基本) 3.2 t (オプション) |
0.3 t |
0.6 t (投棄分) |
推進薬質量 |
66.0 t |
10.8 t |
2.5 t |
0.1 t |
- |
平均推力 |
1,580 kN |
377.2 kN |
81.3 kN |
- |
- |
比推力 |
283.6 s (真空中) |
299.9 s (真空中) |
301.7 s (真空中) |
202.0 s (連続) |
- |
全燃焼秒時 |
120.0 s |
104.7 s |
91.1 s |
- |
- |
マスレシオ |
0.911 |
0.923 |
0.917 |
- |
- |
基本型は3段式の固体ロケットで、高い軌道投入精度が必要な場合は液体燃料エンジンを利用したPBSを追加することが計画されている。誘導制御は1、2段とPBSで行う。また、打ち上げ時のロケット整備作業を削減するため、ロケットに自己点検機能をもたせ、パソコン1台でネットワークを通じて遠隔地からロケットの点検や管制を行う事なども検討されている。M-Vロケットではランチャーから斜めに打ち上げていたが、イプシロンロケットでは垂直に打ち上げられる。
第1段へのSRB-Aの採用 [編集]
多段式ロケットは下段を切り離すたびにペイロードの占める重量比が大きくなっていくため、上段になるほど無駄なくペイロードを加速できるようになる。逆に下段ロケットは上段ロケットを大気圏外まで持ち上げることが主な役割であり、ロケット全体に占めるペイロードの重量比が少ない分だけ、下段はペイロードの加速に寄与しにくい。すなわち上段の性能を高めると全体性能が大きく向上するが、下段の性能を高めても全体性能の変化は小さいことになる。逆を言えば下段で性能を上げる場合は効率が低い分だけ大規模にせねばならず、コストに与える影響も大きい。[23]
そこでイプシロンロケットでは性能を落としてでも大胆にコストダウンする手法が採られ、第1段にH-IIAロケットの固体ロケットブースターのSRB-A3を最低限の改造(ロール制御用のSMSJなど)で流用している。SRB-AはM-34とKM-V2を持ち上げるために最適化されたM-Vロケットの第2段のM-25に比べて推力が大きいため、イプシロンロケットではSRB-Aの能力を最大限使える高圧型モータではなく、打ち上げ能力は低下するが積荷の衛星に優しい長秒時型モータが使用される。
第2段・第3段の最適化 [編集]
コスト重視の設計がなされた第1段に対し、第2段及び第3段はM-Vロケット以上の性能向上が図られる。第2段にはM-Vロケットの第3段M-34bモーターの改良型を、第3段にはM-Vロケット5号機のキックステージKM-V2の改良型を採用し、これらはモータケースの軽量化や推進薬充填効率の向上が図られている。これにより第2段と第3段のマスレシオ(各段モーター全体重量に対する推進薬重量の比)は世界トップレベルであったM-Vロケット以上になり、ペイロード比(ロケット全体重量に対するペイロード重量の比)もM-Vロケットと同等のレベルを維持できるようになっている。ただし、E-Xの第2段M-34cと第3段KM-V2bは、開発期間の短縮のため、基本設計を変えずにモーターケースの素材と製造工程を変更するのみである。
PBSオプションによる軌道投入精度の向上 [編集]
オプションとして小型液体推進系のPBS(Post Boost Stage)を搭載することが可能である。低軌道ミッションの多くに用いられる他、太陽同期軌道ミッションでは標準的に用いられる予定である。燃料にはヒドラジンを使用し、タンクはカートリッジ方式(製造工場で燃料を充填し弁で封印)とする。これによって軌道投入精度が液体燃料ロケット並に高められる。LE-5Bの制御系統で用いられているスラスタを流用することでコストダウンを図り、小型かつ軽量に設計される。PBSではデスピンと3軸制御が行われる。衛星分離後は軌道をはずれ、残留燃料を放出する予定である。
PBSは静止トランスファー軌道ミッションや地球重力脱出ミッション等のエネルギーが高い軌道への投入には基本的に用いないとされている。これは上段の質量比を損なわないことでペイロード重量を保つためである[24]。
衛星搭載環境の緩和 [編集]
イプシロンロケットで用いる第1段モータSRB-Aには燃焼振動が発生しており、これに起因する正弦波振動がペイロードに及ぼす影響を許容範囲に抑えるために、制振機構を開発している。制振機構には、適切な機軸方向の剛性と横方向の剛性を確保する必要があり、可動ノズル用フレキシブルジョイントとして実績のある技術を応用して、2重円筒構造を積層ゴムで結合する方式を採用し、剛性要求を満足する機構の開発を進めている。また、打ち上げ直後にロケットの噴射からの高音圧の音響が地面に反射し、ペイロードに影響を及ぼすため、火炎偏向板や煙道といった射点周りの局所形状を見直し、液体ロケットレベルの外部音響環境の実現をめざしている[25]。
アビオニクス(打ち上げシステム)の革新 [編集]
M-Vロケットの開発ではロケットの大型化などに注力した結果、地上設備やアビオニクスは旧来のシステムから大きく変わっていなかった。このため、M-Vロケットの運用中にも電子系の大幅な刷新が検討されていたが、イプシロンロケットではシステムの革新が大きなテーマになった。 ロケットに搭載する電子機器を一対一で接続するのではなく、LANのようなシリアルバス接続とすることで簡素化する試みはH-IIAロケットでも行われているが、イプシロンロケットではこれをさらに進化させる。機体に装備する様々な機器に自己診断機能を持たせることで、打ち上げ前の点検を自動化する。これらの情報のやりとりはシリアルバスを経由するため、遠隔地であっても(理論上はインターネットを経由しても)点検が可能になる。地上機器も当初は自動車程度の大きさを想定していたが、検討によりノートパソコン程度の簡素なシステムにできる見通しとなり、「モバイル管制」と称している。 また、ロケットに搭載されている各種機器は固有仕様の物が多く、機器の置き換えや組み替えをするためには適合のための開発作業が必要だった。イプシロンロケットでは、次世代の宇宙機用ネットワーク規格として国際的に標準化が進められているSpaceWireを取り入れることで互換性を高め、機体構成の変更や、部品の枯渇への対応を容易にすることとした。
組立の簡素化 [編集]
M-Vロケットの第1段は、モータケースが2分割で、さらにノズルも分離した状態で工場から搬出され、射場で組み立てていた。これを、SRB-Aと同じく一体に組み立てた状態で射場に搬入することで、射場作業を簡素化する。同様に、第2段以上もできるだけ工場で組み立てて搬入する。システムの革新と併せ、射場での準備期間と作業人数を大幅に削減し、固体ロケットが本来持っている特徴でありながらM-Vロケットでは充分に活用できていなかった「短期間で簡素な打ち上げ」を実現する。イプシロンロケットとM-Vロケットとの比較[5]を以下に示す。
| イプシロンロケット | M-Vロケット |
ロケット製作期間 (受注から打ち上げまで) |
1年以内 |
3年 |
射場作業日数 (第1段射座据付から打ち上げ翌日まで) |
7日[26] |
42日 |
衛星最終アクセスから打ち上げまで |
3時間 |
9時間 |
垂直打ち上げ方式の採用 [編集]
M-VまでのISAS衛星打ち上げロケットは、次にあげる必要性とメリットによりランチャーから海に向かって斜めに打ち上げられていた。
- 最小限の誘導機能で重力ターン方式による衛星軌道投入を行うため(主にM-3SIIまで)
- 第一段ロケットが異常燃焼をおこしてもロケットを確実に海に投げ出すため
しかし、M-V以降の大型固体ロケットをランチャーから斜めに打ち上げるには、次にあげるデメリットがあった。
- 煙道を設置できず、打ち上げの瞬間、噴射の反射波が及ぼす衝撃が衛星にとって大きな障害となる。
- ランチャー離脱時に、それまでのランチャーの垂れ下がり(数十cmに及ぶ)から開放される振動がロケットにとって大きな障害になる。
- ランチャー滑走時の摩擦による抵抗が無視できない。
誘導制御機能が充分に備わったイプシロンロケットでは充分に信頼性の確立されたSRB-Aを第1段に使用する為、異常燃焼についての懸念が無くなり、斜め打ち上げではデメリットしか存在しなくなった。このため、従来のミューランチャーを使用してロケットは垂直に打ち上げられ、ロケット下部には効果的な煙道が設置される。
打ち上げ [編集]
打ち上げ予定 [編集]
2013年度(平成25年度)
2014年度(平成26年度)
2015年度(平成27年度)
2017年度(平成29年度)以降
小型科学衛星は宇宙基本計画において5年毎に3機程度を打ち上げるものとされている。また、無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)が開発を進めているASNAROはイプシロンロケットでの打ち上げも想定している。運用側にはイプシロンロケットを毎年1,2機打ち上げたいという意見がある[28]。
将来性 [編集]
発展型 [編集]
2017年(平成29年)度以降に打ち上げる予定のE-Iからは、以下の項目を実現して機体構造と電子機器と設備の抜本的低コスト化を図り、30億円以下で打ち上げを可能にする予定である[5]。
- 更なる軽量化により世界最高のペイロード比と各段マスレシオを実現して打ち上げ能力を向上させる。
- 全てのロケットに適用できるまでにアビオニクスシステムのネットワーク化とモジュール化を進めて、運用性と将来の部品枯渇時の再開発の効率を上げる。
- 射場からトラッキングレーダーを廃止して運用性を向上させる。
- 複合一体成型や民生技術を導入し機体の価格を更に下げる。
- 無毒液体推進系N2O/エタノールを用いたPBS[29]。
月惑星探査の可能性 [編集]
小型衛星打上げ用に計画されているイプシロンロケットであるが、衛星同様に探査機も小型化を進めている中で、月惑星ミッションに挑戦することも十分に可能である。4段ロケットに相当する推進薬質量700㎏程度の超小型キックモータにより格段に性能は向上、火星や金星に200kgの打上げ能力で惑星探査が十分に視野に入ってくる[25]。
基幹ロケットへの応用 [編集]
日本の基幹ロケットのH-IIAロケットの能力は世界的にも充分なレベルに達しているが、今後も信頼性向上やコストダウンなどの段階的な改良の積み重ね(ブロックアップデート)が必要とされている。そこで、まずイプシロンロケットでモバイル管制などの革新的な技術を実用化し、それをH-IIAロケットや将来の基幹ロケットに応用することが考えられている。すなわち、イプシロンロケットは「低コストで使い勝手の良い小型衛星打ち上げ機」であると同時に「革新的ロケット技術の練習台」としても位置付けられているのである。
脚注・出典 [編集]
- ^ a b c d “イプシロンロケットプロジェクトについて”. JAXA (2010年7月14日). 2010年7月15日閲覧。
- ^ a b “イプシロンロケット事業の促進について”. JAXA (2011年1月12日). 2011年1月12日閲覧。
- ^ a b “M型ロケット発射装置改修(イプシロンロケット対応) (PDF)”. JAXA (2011年1月12日). 2011年1月26日閲覧。
- ^ “新型ロケット「イプシロン」登場間近 人工知能化を追求、低コストに”. サンケイビズ. (2010年8月23日). http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100823/mca1008230949004-n1.htm 2011年2月15日閲覧。
- ^ a b c d e f 宇宙開発に関する重要な研究開発の評価 小型固体ロケット(イプシロンロケット)プロジェクトの事前評価結果(宇宙開発委員会 2010年8月11日)
- ^ 時事通信 2007年9月6日の記事
- ^ ISASニュース No.241 小型低コストのM-V-Liteと,それによる理工学ミッション
- ^ ISASニュース号外 No.288e Mロケットの明日を"読む"
- ^ 打ち上げ能力は低軌道に500kg。コストはM-Vの1/3以下の25億円。第3段を付加した場合は低軌道に1.3tで、惑星間軌道には130kg程度。JAXA河内山理事に聞く次期固体ロケット 日経BP net 2006年8月6日
- ^ 低コスト化で岐路に立つM-Vロケット(松浦晋也の「宇宙開発を読む」)
- ^ 宇宙開発における計画管理は進捗によって「研究(研究→概念設計)」→「開発研究(予備設計)」→「開発(基本設計→詳細設計→維持設計)」→「運用」の4つの段階(フェーズ)に分かれている。要求に基づき仕様や計画を決めるのが「研究」、使用や計画を詳細に文書化し、新技術の試作をし実現性の目処を付け、開発体制を構築するのが「開発研究」、設計についての各種解析をし、全体の試作品から実機を作り、各種試験を行うまでが「開発」である。「開発研究」までが企画立案フェーズ、「開発」以降が実施フェーズである。宇宙開発委員会は各フェーズアップに対する審査を行う。この一連の開発手法をNASAではPPP(Phased Project Planning)と呼び、NASDAが取り入れたものである。5.評価実施のための原則(文部科学省公式サイト)、設計品質確保の思想 航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」(Tech Village 2006年3月28日)、図1 宇宙開発委員会における宇宙開発プロジェクトの評価システム(宇宙開発委員会公式サイト)を参照。
- ^ 推進部会(平成19年)(第7回)議事録(宇宙開発委員会 推進部会 2007年8月27日)
- ^ 平成19年宇宙開発委員会(第27回)議事録(宇宙開発委員会 本委員会 2007年8月29日)文中では「開発段階への移行」となっているが正しくは「開発研究段階」である。
- ^ 全長約25.2m、直径2.1m(上段)/2.5m(1段)、全備質量約90.8ton、第2段はM-34を基に新規開発したM-35、第3段はKM-V2を基に新規開発したKM-V3。次期固体ロケットの研究概要 IHI技報 第49巻第3号 164頁-171頁(PDF:977KB) 大塚浩仁、矢木一博、岸 光一、野原 勝、佐野成寿
- ^ 朝日新聞 2008年1月7日の記事
- ^ 積荷である小型科学衛星は、2009年9月時点で、1号機2012年度、2号機2013-15年度、3号機2016年度までの打上げを想定していた。中川貴雄,澤井秀次郎,第10回宇宙科学シンポジウム 小型科学衛星シリーズの現状(ISAS)
- ^ 変更点は、
* 第2段と第3段はM-Vを基にほぼ新規開発 → モーターケースのみを新規開発
* 構造は全面新規開発 → フェアリングとRAF等のみを新規開発
* 火工品はH-IIAから流用 → H-IIAとM-Vから流用
* アビオニクスはH-IIAを基にほぼ新規開発 → 大幅にH-IIAから流用
* 小型液体ステージ追加
- ^ 委29-1-1 宇宙開発に関する重要な研究開発の評価について 小型固体ロケット(イプシロンロケット)プロジェクトの事前評価結果(1)p3~p10 (宇宙開発委員会(第29回) 本委員会 2010年8月11日)
- ^ JAXA相模原キャンパス一般公開2008 講演 - 森田泰弘
- ^ Yasuhiro Morita, Takayuki Imoto, Hirohito Ohtsuka and Advanced Solid Rocket Research Team (2008年6月3日). “Research on an Advanced Solid Rocket Launcher in Japan (PDF)” (英語). 26th International Symposium on Space Technology and Science. 2011年1月26日閲覧。
- ^ Kazuyuki.Miho, Toshiaki Hara, Satoshi.Arakawa, Yasuo Kitai, Masao Yamanishi (2009年7月10日). “A minimized facility concept of the Advanced Solid Rocket launch operation. (PDF)” (英語). 27th International Symposium on Space Technology and Science. 2011年1月26日閲覧。
- ^ “「次期ロケット 内之浦に」 宇宙開発促進協総会 国に打ち上げ要望へ”. 西日本新聞 (2010年6月23日). 2010年7月11日閲覧。
- ^ 第1段に流用するには、M-Vロケットの第1段のM-14では第2段のM-25が無くなるため加速がきつきなり、H-IIAロケットのSRB-Aでは規模の割に推進薬が少なく推力が小さく燃焼時間も長い。ロケット全体の最適化を図るためには、第2、3段を第1段に、または第1段を第2、3段に合わせて全面的に最適ステージング設計する必要がある。
- ^ Atsushi Mayumi, Hirohito Ohtsuka, Kazuhiro Yagi, Yasuhiro Morita, Hiroto Habu (2008年6月3日). “The Advanced Solid Rocket for Various Small-sat Missions (PDF)” (英語). 26th International Symposium on Space Technology and Science. 2011年1月26日閲覧。
- ^ a b イプシロンロケットの開発と今後の展望宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 森田泰弘(PDF/2.19MB) 社団法人 日本航空宇宙工業会 会報 航空と宇宙 2011年3月号
- ^ イプシロンロケットの射場作業1日あたりのコスト低減効果は約800万円
- ^ 小型科学衛星の将来計画 - 小型科学衛星専門委員会
- ^ 推進部会(平成19年)(第6回) 配付資料
- ^ 先進的固体ロケットシステム実証研究WGの活動について(PDF) JAXA宇宙科学研究所 第11回宇宙科学シンポジウム(2011年1月5日) 講演集 羽生宏人,徳留真一郎,後藤健,佐藤英一
関連項目 [編集]
外部リンク [編集]