(98)「笑」 笑いで神様楽しませる
日常使う漢字の目安である常用漢字の改定が今年予定されています。その審議(しんぎ)で、新しく「妖(よう)」「沃(よく)」という2字も常用漢字に加わる候補になっています。今回と次回はその「妖」「沃」などについて紹介(しょうかい)しましょう。
まず「妖」「沃」に共通する字形「夭(よう)」の古代文字を見てください。これは若い巫女(みこ)さんが手をあげて舞(ま)い踊(おど)る姿です。
そう思って「夭」の古代文字を見ると、リズムに合わせて踊る若い人に見えてきませんか。舞い踊るのは若い巫女さんですから、「夭」には「わかい」意味があります。「夭折」「夭逝(ようせい)」は「若死にすること」です。
巫女さんは体をくねらせて踊るので、「夭」には「しなやかに曲がるもの」の意味もあります。「しなやかに屈伸(くっしん)するさま」を意味する「夭矯(ようきょう)」との言葉もあります。
この「夭」をふくむ文字で、みんなが知っている字は「笑」でしょう。「竹かんむり」の部分は「竹」のことではなく、両手をあげて踊る巫女さんの両方の手を表しています。つまり「笑」は笑いながら舞い踊る若い巫女さんの姿のことです。
巫女さんは神様にいろいろなお祈(いの)りをして、神の意思をうかがうのですが、祈りに応える神の意思をやわらげるために、笑いで神様を楽しませながら踊っているのです。
その関連で知ってほしいのは花が咲(さ)く「咲」という字です。その古代文字を見てください。「笑」の古代文字と同じです。「咲」の古い字は「笑」と同じだったのです。
さて最後に「妖」です。「夭」は神様のために踊る若い巫女さんのこと。その一心に踊る姿はあでやかな姿でしたので「あでやか」の意味があります。「妖艶(ようえん)」などの言葉がその意味です。
また一心に踊る巫女さんは神様がのりうつったような状態になり、あやしい存在となってしまうこともあります。ですから「妖怪(ようかい)」「妖異」には「あやしいもの」の意味があるのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)
小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静 文字学入門 なるほど漢字物語」「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い」(いずれも共同通信社刊)などがある。