中核市(ちゅうかくし)は、日本の地方公共団体のうち、地方自治法第252条の22第1項に定める政令による指定を受けた市。日本の大都市制度の一つである。現在の指定要件は、法定人口が30万人以上であること。所属する都道府県の議会と、その市自身の市議会の議決を経て、総務大臣へ指定を申請する。
概要 [編集]
日本の大都市制度には、政令指定都市・中核市・特例市の別がある。いずれも都市の規模に応じて、市に都道府県の事務権限の一部を移譲する制度であり、中核市には政令指定都市に準じた事務の範囲が移譲されている。ただし関与の特例については行政分野の大半に認められている政令指定都市と異なり、中核市では福祉に関する事務に限られる。
中核市一覧 [編集]
現在、以下の41市が中核市に指定されている。
過去に指定されていた市 [編集]
- 静岡県静岡市
- 1996年4月1日指定、2003年4月1日に清水市との新設合併のため再指定、2005年4月1日に政令指定都市へ移行
- 大阪府堺市
- 1996年4月1日指定、2006年4月1日に政令指定都市へ移行
- 新潟県新潟市
- 1996年4月1日指定、2007年4月1日に政令指定都市へ移行
- 静岡県浜松市
- 1996年4月1日指定、2007年4月1日に政令指定都市へ移行
- 岡山県岡山市
- 1996年4月1日指定、2009年4月1日に政令指定都市へ移行
- 神奈川県相模原市
- 2003年4月1日指定、2010年4月1日に政令指定都市へ移行
- 熊本県熊本市
- 1996年4月1日指定、2012年4月1日に政令指定都市へ移行
移譲される事務 [編集]
地方自治法第252条の22[2]で、中核市は「政令指定都市が処理することができる事務のうち、『都道府県が一体的に処理すべき』とされた事務以外のものを処理する」と定義され、具体的な定めは政令に委ねられている。
行政分野ごとに個別にみると、中核市は保健所を設置して保健衛生行政を担当するほか、民生行政・環境保全・都市計画・文化財の保護などの行政分野について、政令指定都市に準じた事務の範囲を都道府県から移譲されており、これらの事務処理を行使するために必要な財源として、地方交付税が増額される。もっとも、事務処理への都道府県の関与について政令指定都市においては都道府県知事や都道府県の委員会の
- a.処分(許可、認可、承認等)を要すると法令で定めている事項のうちから、政令により、その処分を不要とするか、代わりに各大臣の処分を要するものとする、
- b.命令を受けると法令で定めている事項のうちから、政令により、その命令に関する法令の規定を適用外とするか、代わりに各大臣の命令を受けるものとする、
ことになっている(第252条の19第2項)が、中核市に関しては、処分についてa.に相当する特例規定は無く、命令についてはb.に類似する特例規定はあるが、委員会の命令は対象とならない(第252条の22第2項、地方自治法施行令[3]第2編第8章)。
関与の特例が行政分野の大半に及ぶ政令指定都市と異なり、中核市における関与の特例は、福祉に関する事務のみに限定されている[4]。
このようなことから中核市の権限は、都道府県並みあるいは都道府県と同等とされ行政区設置等の特例もある政令指定都市と比較すると小さい。
中核市に移譲される事務は、すべて列挙すれば1800件程度にのぼるため、ここでは主要な事務のみを抜粋して掲載する。なお、ここに掲げるのはあくまでも標準的な中核市の例であり、都道府県が独自の条例を制定して、更に多くの事務権限を移譲することも可能である。
事務 | 中核市が移譲される事務 | 政令市との違い(政令市に認められ、中核市に認められない事務) |
民生行政に関する事務
社会福祉に関する事務。児童相談所の設置以外、政令市とほぼ同様の権限
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左記の中核市の権限に加えて、
- ただし例外あり。従来は都道府県及び政令指定都市のみに設置義務があったが、児童福祉法の改正によって、2006年4月より中核市でも設置が可能になった。金沢市、横須賀市等で開設実績がある。
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保健衛生行政に関する事務
保健所を自ら設置。政令市とほぼ同様の権限
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政令市もほぼ同様
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都市計画に関する事務
都市景観の保全などを除き、都道府県の一定の関与が残る。政令市は、都市計画の決定の自由度がより高いほか、市内の国道・都道府県道を自ら管理する。
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左記の中核市の権限に加えて、
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環境保全行政に関する事務
環境の保全に関する事務。政令市とほぼ同様の権限
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政令市もほぼ同様
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地方教育行政に関する事務
中核市は、教職員の研修を行う権限を持つ。政令市はこれに加え、教職員の人事権も持つ。
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- 中核市には、教職員の研修実施の権限のみがあり、人事権はない。ただし、中核市市長会から「研修権限のみでは成果を得にくい」との要望が出ており、文部科学省では、中核市にも人事権を移譲する検討を進めている。#権限のさらなる移譲も参照[5]。
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左記の中核市の事務に加えて、
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行政組織上の特例 |
原則として特例なし。
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- 政令指定都市は行政単位としての区を設置することができる。平成の大合併で誕生した中核市の中には、合併特例区が設けられることがあるが、旧・合併特例法に基づく時限措置で、政令指定都市の区とは性格を異にする。
詳細は「合併特例区」および「市町村の合併の特例等に関する法律#合併特例区の創設」を参照
- 同様に、地域自治区を設ける中核市があるが、これには法人格がなく存続期間は定められておらず、やはり、政令指定都市の区とは性格を異にする。
詳細は「地域自治区」を参照
- なお、中核都市であることが合併特例区を設ける要件ではなく、旧・合併特例法の要件を満たす市区町村であれば設けることができる。同様に地域自治区も地方自治法あるいは旧・合併特例法の要件を満たす市区町村であれば、設けることができる。
- また、兵庫県姫路市(中核市)のように、編入した市町村の町名を区別するために、地名として「区」を表記する場合がある[6]。
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財政上の権限・その他 |
- 増加した行政需要に対応するため、地方交付税の計算が、一般の市とは異なった算定式で計算される(増額)。
- 関与の特例は原則としてない。ただし、中核市として移譲された民生行政関連事務については、通常都道府県知事の監督を受ける事務でも、直接主任の大臣(国)の監督となる。
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左記の中核市の権限に加えて、
- 宝くじの発行が可能になるほか、道路特定財源、軽油引取税の交付を受けられる。また地方交付税ないし地方譲与税が、政令市専用の算定式で計算されるため、増額される。地方債を発行する際の協議先が、都道府県知事ではなく総務大臣へ変わる。
政令指定都市として移譲された所管の事務については、都道府県知事の監督が外れ、県を通さずに直接国と接触できるようになる。
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権限のさらなる移譲 [編集]
中核市に現行で移譲されている権限は不十分で、さらなる権限委譲を実施すべきだとする主張もある[7]。
こうした指摘のうち、最も議論が盛んなのは、県費負担教職員(公立小中学校の教職員など)の人事権に関する問題である。現行の制度では、中核市には教職員の研修実施権限があるのみで、人事権は都道府県に留保されている。これに対して中核市側は、「研修実施権限のみ認められても、人事権がなければ成果を得にくい」として、人事権も移譲するよう求めている。都道府県側は、教職員採用希望者の都市部への集中を懸念して慎重な姿勢を示しているものの、文部科学省は人事権移譲に比較的前向きで[8]、実際に人事権を委譲した場合、どのような影響があるかを具体的に検討する方向で調整している。さらに、北海道を中心に盛り上がっている議論としては、「広域中核市制度」がある。これは30万人以上という人口要件を外し、政令市と同じ機能を持たせる制度。実現すれば県の業務は縮小し、市町村合併を加速させる効果がある。
中核市たる要件 [編集]
- 人口が30万以上であること。
- 中核市は、関係市からの申出に基づき、市議会及び都道府県議会の議決を経て、政令で指定される。
- あくまで移行時の人口要件なので、現在は30万人を下回る中核市も存在する。
※かつての指定要件については、[表示]タブで表示。
- 1995年(平成7年)4月1日時点(制度発足時)
- 人口が30万以上であること
- 面積が100km²以上であること
- 人口が30万以上50万未満の場合、昼間人口が夜間人口(常住人口)より多いこと
- 人口要件について ―行政需要のまとまりと行財政能力を確保するため、保健所設置市とされる中核市の規模を保健所設置市の基準と合致させるため、制度発足の契機となった全国市長会からの提言が「人口30万以上の都市に権限を委譲すること」だったため
- 面積要件について ―行政需要のまとまりを当時の政令指定都市に準ずる規模で確保するため
- 昼夜間人口比について ―周辺市町村の中核的な都市であることを確認するため
- 2000年(平成12年)4月1日以降 (昼夜間人口比に関する要件の廃止)
- 人口が30万以上であること
- 面積が100km²以上であること
- 地方分権推進委員会の勧告があり、また人口と面積の要件のみで充分な諸機能・行政需要・規模能力があるものと見なせるとされたため、昼夜間人口比の要件は廃止された。
- 2002年(平成14年)4月1日以降 (人口50万以上の都市における面積に関する要件の廃止)
- 人口が30万以上であること
- 人口が30万以上50万未満である場合は、面積が100km²以上であること
- 第26次地方制度調査会答申において、行政需要・行財政能力・都道府県の行政サービスの効率性勘案の上で、権限委譲推進の観点から人口50万人以上の都市の面積要件の撤廃が盛り込まれ、これが実行された。
- 人口30万以上50万未満で面積100km²未満の都市が大都市圏に多数集中しており、これらを全て中核市とすると保健行政をはじめとする当該府県の行政効率性に重大な影響があるとの観点から、人口50万未満の都市について面積要件は残存した。
- 2006年(平成18年)6月7日以降 (面積に関する要件の廃止)
- 人口が30万人以上であること
- 第28次地方制度審議会の結果、2005年(平成17年)12月9日の答申で「市町村合併の進展の結果基礎自治体の規模・能力は拡充され、基礎自治体を中心とする行政の展開を図ることが求められていること、既に37都市が中核市に指定されているが都道府県行政との関係で特段の問題が起きていないことを踏まえ、面積要件については廃止することが適当」とされ、これが実行された。
要件を満たし指定を目指している市 [編集]
要件を満たすものの指定されていない市 [編集]
人口30万人以上であるが、中核市ではない市の一覧(移行を予定・検討している市を除く。※は特例市)。
中核市や特例市は、県の仕事が委譲されるものなので、市内に県庁がある県庁所在地の自治体や、都府県庁が既に出先機関を置いている場合が多い三大都市圏内の人口の多い自治体は、中核市・特例市となる動機が弱い。中核市・特例市ともに、県庁および県庁出先機関の機能が弱い中核都市、または、プライメイトシティである県庁所在地に適したシステムである。
要件を満たしていないが指定を目指している市 [編集]
脚注 [編集]
関連項目 [編集]
外部リンク [編集]
以下に示す法令は総務省行政管理局提供の法令データ提供システムにより閲覧できます。
- 地方自治法第二百五十二条の二十二第一項の中核市の指定に関する政令(平成7年12月8日政令第408号)