遅れが目立っていた日本の教育現場のICT化がようやく加速しそうだ。文科省は小中学生に1人1台パソコンを配備するGIGAスクール構想の前倒しを発表した。
―時代おくれ解消へ本腰、ビジネスチャンスをつかむのは―
新型コロナウイルス の感染拡大はいまだ収束の気配が見えないものの、コロナ禍を奇貨として、産業のさまざまな分野で変化が起こりつつある。
教育分野もその一つで、小中・高校の一斉臨時休校により、通学して教室で一斉授業を受ける代わりに、
オンライン学習が急速に普及しているほか、インターネット会議システムを用いて始業式を行う学校も出始めた。ただ、オンラインによる学習は大学や私学では導入が進むものの、公立の小中・高校の多くは、環境も制度も整っていないのが実情だ。
こうした状況を受けて、文部科学省は4月7日、2023年度までとしてきた小中学生に1人1台パソコンを配備するGIGAスクール構想を前倒しで進め、今年度末までに実現する方針を発表した。あわせて、カメラやマイクなどの購入費も支援するほか、通信環境が整っていない家庭にはモバイルルーターも貸し出す方針という。かねてより日本は
教育のICT化に関しては遅れが指摘されていたが、今後はその遅れを取り戻す動きが加速するとみられ、関連する企業のビジネスチャンスが広がりそうだ。
●児童生徒1人1台に端末を行き渡らせる
GIGAスクール構想は、小中・高等・特別支援学校において、全国一律のICT環境の整備を目指すもの。20年度中に希望する全ての小中・高等・特別支援学校に校内LAN環境を整備するほか、23年度までに児童・生徒1人1台の端末を行き渡らせることが柱となっており、19年度補正予算として2318億円の予算が組まれていた。
GIGAスクール構想の背景には、
教育ICTで海外に後れを取っているという危機感がある。文科省によると、19年時点でのパソコン配備は、小中学校では児童生徒5.4人に対し1台にとどまる。また、OECD(経済協力開発機構)が実施した生徒の学習到達度調査の18年の調査によると、1週間のうち授業で「デジタル機器を利用しない」日本の生徒の割合は国語で83.0%、数学で89.0%に及び、OECD平均の各々48.2%、54.4%を大きく上回る。こうした整備の遅れが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う臨時休校などの非常時にネックとなっている。
●緊急経済対策で2292億円の予算を計上
これを受けて、政府は遠隔教育などの実現を加速する方針を発表。「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」で「GIGAスクール構想」を前倒しする方針を固めた。児童生徒1人1台端末の整備スケジュールの加速や学校現場へのICT技術者の配置の支援、在宅・
オンライン学習に必要な通信環境の整備を図る方針で、20年度補正予算で2292億円を計上している。
これにより、
教育ICTに関連する企業にとっては、特需が発生する可能性が高まっている。予算の内訳をみると、約85%に当たる1951億円が1人1台端末の早期実現を目指すもので、パソコンやタブレット端末、その周辺機器を扱う企業にとってはビジネスチャンスが広がることになる。また、Wi-Fi環境が整っていない家庭に対する貸与などを目的に自治体が行うモバイルルーターの整備支援で147億円、学校ネットワーク環境の整備支援に71億円、ICT関係企業OBなどICT技術者の配置経費支援に105億円などがあてられる予定で、これらに関する企業にとっても商機につながりそうだ。
●端末や周辺機器の会社に商機
注目銘柄の一つがダイワボウホールディングス <
3107> だ。パソコンやタブレットなどの販売を行うITインフラ流通事業を展開しており、5月13日に発表した本決算でも、新型コロナ感染拡大により想定される機会として、在宅勤務などのテレワーク需要と並んでGIGAスクール構想の加速を挙げている。同事業は20年3月期、Windows7サポート終了に伴う更新需要などで8570億円(23.5%増)の売上高を計上したが、今期も伸長が期待できる。
内田洋行 <
8057> は、上期(19年7月21日-20年1月20日)の連結営業利益が39億1600万円(前年同期比5.7倍)と大幅増益となったが、その要因として環境構築関連事業における首都圏オフィス需要の拡大や、ICT関連事業におけるWindows10への更新需要の増加などと並んで
教育ICTの拡大を挙げている。1人1台端末により端末台数が急拡大すると、その環境をサポートするために多様なソリューションを複合的に整備する必要があり、総合的に提供できる同社の優位性が発揮される。
パシフィックネット <
3021> [東証2]は、政府の緊急事態宣言の発出以降、
テレワークや遠隔教育用にノートパソコンやWi-Fiルーターなどの中長期サブスクリプションや短期レンタルの問い合わせが急増しているという。同社はパソコンのライフサイクルマネジメント(LCM)を主力としており、端末の確保から顧客に合わせた設定、出荷などに強みがある。第3四半期累計(19年6月-20年2月)営業利益は通期計画に対する進捗率で8割を超えていることから、20年5月期業績は計画上振れの可能性もある。
大日本印刷 <
7912> は、システム開発のSky(大阪市淀川区)と協業し、小中学校向け学習支援システムを搭載したタブレット端末の取り扱いを開始する。新型コロナウイルス感染症の影響で、学校と家庭の両方で利用可能なタブレット端末の重要性が高まっていることから、自治体向けに6月にも提供を開始する予定だ。
このほか、Wi-Fiルーターに強いバッファローを子会社に持つメルコホールディングス <
6676> や、幅広いパソコン周辺機器を扱うアイ・オー・データ機器 <
6916> なども関連銘柄として注目される。更に、デジタル教材など
教育ICTのソフト分野を提供するすららネット <
3998> [東証M]やチエル <
3933> [JQ]、ベネッセホールディングス <
9783> なども関連銘柄として挙げられよう。
ただし、パソコンの在庫に関するニュースには注意が必要だ。
テレワークの広がりもあって需要が急増する一方、サプライチェーンの乱れで供給に不透明感がある。
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