岡山県出生。兵庫県姫路市出身。

父は浪曲師の加茂川燕楽で母は加茂川蘭子で妹には浪曲漫才フラワーショウ華ゆりがいる。

そのため、幼い頃から厳しい修行を受け全国を巡業、学歴は小学校1年1学期だけである。

5歳(6歳とも)で初舞台を踏む。

当初は2代目京山幸玉の門下で13歳の時に初代京山幸枝門下となり、幸太郎と名乗り、1941年には京山幸枝若と名乗った。

戦後は、山県隆の名で地方巡業をしている時に幸枝に知られ、再び幸枝若を名乗り、1953年に姫路に戻る。

師匠譲りの読み物を持ち前の美声で語り、人気を博した。

大阪の民謡である江州音頭河内音頭でそれぞれ京山幸枝若節を確立。

また創作浪曲にも力を入れた。

若者向けの番組に主演したり、桜川唯丸漫才師ロックバンドヒカシュー等と一緒に舞台をやったりするなど、浪曲の古いイメージからの脱却を図ったこともある。

長らく曲師は二丁三味で藤信初子小池菊江が務めた。

またギターを近江吾朗が務めた。

歌謡浪曲を競い合った時代の一人である。

なお、タコが入っていないたこ焼きが好きであった。

竹 の 水 仙


【主な登場人物】
 宿屋の亭主  客  肥後・細川の殿様  家来・大槻玄蕃(げんば)

【事の成り行き】
 ウェッブの世界はまだまだ始まったばかり、現在のところソフトの充実よ
りもハードの追いかけっこが先行しています。ついこの間まで ISDN が先頭
を走ってたと思っていたのに、いま時代は ADSL なのだそうで、次には各戸
光ケーブル引き込みが控えているとか。

 これもいずれ成熟すればコンテンツの中身、ウェッブを利用して何を行う
かが問われるようになるのでしょう。そのとき、ウェッブ界にこの人ありと
称される巨匠、名人が出てきてマウスをごにょごにょ、キーボードをカタカ
タっと叩けば、デザイン料何千万円の仕事が出来上がる。そんな光景が目に
浮かびます。

 やれデジタルだ IT だと言ったところで作り上げるのは人間の手、最後に
は技術屋さんの論理世界ではなく、一番微妙な芸術感覚がものを言う世界だっ
た。てなことになってしまうのかも。

 ♪包丁一本 サラシに巻いて……、月の法善寺横町やないですが、ノート
パソコン一台小脇に抱えてインターネット修行にでも出よかいなと思ってい
る今日この頃です(2001/07/08)。

             * * * * *

 え~、どぉもよぉこそのお運びでございまして、ありがたく御礼を申しあ
げます。梅団治と申しまして、一席のあいだお付き合いをいただくわけでご
ざいますが。

 ある奥さんが、絵ぇの展覧会へ行きましてね、係りの人を呼んでるといぅ
お噺でございまして。

●ちょっと、係の方、係の方、この絵はルノアールの絵ね?■いえ、奥様、
これはゴッホでございます●あ~らそぉなの、この絵はゴッホなの? その
隣り、これがルノアールね?

■いえ、これはモジリアーニでございます●あらそぉなの……、あッ、その
隣り、これは分かるわ、ピカソでしょ■鏡でございます。

 あ~、いろんなお噺がございますが、ねぇ、芸術といぅのがいろいろとご
ざいましたですが、江戸時代の芸術と申しますと、やっぱりこの浮世絵でご
ざいますね、浮世絵。

 あまりこの、日本に残ってる浮世絵といぅのは無いそぉでございますが。
え~、北斎でありますとか、広重『東海道五十三次』でありますとかね、富
士山の絵ぇといぅのがまぁ有名でございますなぁ。

 うちの家もね、ちょいちょい浮世絵を見てるんでございます、わたしも。
あまりあの、裕福そぉには見えておりませんが、浮世絵を見てるんでござい
ます。ですが、どぉいぅわけか浮世絵を見てるときはお茶漬け食べてるんで
ございますがね……。まぁ、分かった方だけで、結構でございます。

 この江戸時代、やっぱりこの、浮世絵とおんなじよぉに、まぁ広重とか北
斎、美人画で申しますと歌麿、こぉいぅ方とおんなじよぉに有名やった方が
いらっしゃいましてね、こちら、彫り物のほぉでございます、彫刻、こぉいぅ
方がいらっしゃったんやそぉですが。


 大津の宿は近江屋佐兵衛といぅ宿屋さん、今日も朝の早よから下の方では
夫婦喧嘩の真っ最中……

▲ちょっとあんた、二階のあの客、今日でもぉ十日になるシ。えぇかげんで
宿賃もろたらどないだんねん●アホなこと言ぃなやお前、十日泊まろぉが二
十日泊まろぉが、立つときに宿賃もらうっちゅうのが昔からの決まりやない
かい▲そんなこと分かってるわいな。けどもやで、あの客、わたい来たとき
からムカムカしてんねん。

●何をそない怒っとんねん?▲何をてせやないかいな、汚い恰好して、もの
言ぅときかて偉そぉに「酒呑ませ、酒呑ませ」ちゅうて。あんた、あいつが
何ぼほど酒呑むのんか知ってるのんか? 朝一升、昼一升、晩一升、寝酒に
一升、夜中に一升。日に五升も酒くらいやがって……

▲酒のアテかてせやないかいな「タイ出せ、ヒラメ食わせ」ちゅうて、竜宮
城みたいにぬかしやがんねん。お金はちょ~っとも入ってけぇへん、出てい
くば~っかり。せやさかい、うちにあるもんみな切れてしもたシ。米切れた、
味噌切れた、醤油切れた。切れへんのは台所にある包丁と、わたいとあんた
の腐れ縁。

●よぉ~しゃべるなぁ……、分かった分かった、もぉ行たらえぇねんやろ、
うるさいガキやなぁホンマに……

●あのぉ~、お客さん、お早よぉさんでおます■ん、これは宿屋のご亭主、
お早よぉさん。で、何ぞ用事かえ?●へッ、え~、わたしあんまりこんなこ
と言ぃたいことおまへんねんけどもな……

■ほな、やめときなはれ●いやいや、そぉいぅわけにはまいりませんのんで、
うちにお泊りいただいて十日になりまんねん。このへんでいっぺん、宿賃の
勘定をさしていただこと思いましてな。

■ん、もぉ十日になりますか? そら宿賃払わないかんなぁ。で、何ぼにな
る?●へッ、あのぉ~十一両二分でおます■十一両二分、安いなぁ……、毎
日まいにち、あれだけの贅沢をさせてもろて十一両二分といぅのは安い●えぇ
そらもぉ、うちは勉強さしていただいとりますのんで■ん、安い。安いこと
は安いが……、金が無い。

●せやろと思たホンマに……「安い、安い言ぅやつが払ろたためしはない」
ちゅうがホンマやなぁ。で、お前、宿賃どないすんねん?■そんな大きな声
を出しなさんな。宿賃を払う段取りをしょ~か●段取りてお前、どないすん
ねん?

■この辺に竹薮はないかいな?●竹薮? それやったらうちの裏が竹薮になっ
たぁるがな■そらちょ~どえぇなぁ。ほな済まんけどな、ノコギリ一丁貸し
てくれるか。で、おまはんも一緒に付いて来るよぉに、そこで宿賃を払お。

●ん~ん? ノコギリ、竹薮……、ははぁ~ん……、お前、わしをバラバラ
にして埋めるつもりやな?■んなアホな、おまさんを傷つける、宿賃払わん、
そんなことするかいな。とりあえず黙ぁ~って付いて来てくれたらえぇさか
い。

 二階の客に言われるままに竹薮へやって参ります。あっちの竹、こっちの
竹と色々と調べてみましたところ、これぐらいの孟宗竹といぅやつを適当な
長さに宿の亭主に切らせますと、自分の部屋へ持って帰って何やコツコツと
作り出しよった。

 夜中と申しますから、ただ今の時間で申しますと一時か二時……

■(パンパンッ)ご亭主、ちょっとわたしの部屋まで来てもらえますか(パ
ンパンッ)ご亭主、ちょっとわたしの部屋まで……、寝てるところをえらい
起こしてすまなんだなぁ。宿賃の段取りができた。これや●ふぁ~ッうぁ~
あぅ~ッ、何やねんそれ?

■「何やねん」て、見て分からんか? 竹でこしらえた水仙のつぼみや●そ
んなもんお前、どないするねん?■「どないする」て、これを売って宿賃を
払お●お前、だいぶん頭の空気抜けてるなぁ。そんなもん売っても、わずか
一文か二文やないかい。

■アホなこと言ぃなや。おまはんとこの払いが十一両二分や、そんな一文や
二文で売ったりするかいな。とりあえず、わたしの言ぅたとおりにしてくれ
るか。

■桶にいっぱいの水を張って、この竹でこしらえた水仙のつぼみを放り込む。
で、表へ出して「売りもん」といぅ札を下げといて。朝には必ず買い手が付
くさかい、買い手が付いたら宿賃払お。

●「買い手が付いたら」……「たら」かいな「たら」ちゅう言葉ほど当てに
ならんもんないねん……、まぁえぇわ、とりあえずお前の言ぅとおりしとく
さかい。

 気のえぇ宿屋の亭主、桶にいっぱいの水を張って、この竹でこしらえた水
仙のつぼみを放り込む。表へ出して「売りもん」といぅ札を下げて、自分は
ゴロっと横んなって寝てしまいます。

 明け方と申しますから五時か六時、向こぉのほぉからやってまいりました
のが、肥後熊本のお大名、五十五万五千石、細川越中守の大名行列。

 大名行列の先頭には「先触れ」といぅお方がいておりました。大槻玄蕃(お
おつきげんば)といぅお侍。顔中こぉ髭だらけ、恰幅のあるお方でございま
すが、いかんせん、近眼(ちかめ)で慌てもんときておりまして、この先触れ
といぅのはお大名に失礼があってはいかんといぅのでいてはったんやそぉで
すが。

★下にぃ~、下に……、下にぃ~、下に。これ、二階から足を出しておる町
人、失礼であろぉ、足を引っ込めッ……。下にぃ~、下に……、これ、聞こ
えぬか。二階から足を出しておる町人、足を……、二階から足袋を履いて、
二階から足袋……

 「ん、足袋屋の看板か?」えぇかげんな人があったもんです。

 お殿さんの駕籠がちょ~ど宿屋の前へ差し掛かったとき、お日ぃさんが昇
りまして、朝日がス~ッと差してまいりました。と、どぉいぅ細工がしてあっ
たのか分かりませんが、この竹でこしらえた水仙のつぼみ、朝日が当たりま
すといぅと「パチッ」といぅ音を立てて綺麗な花が咲きます。あたり一面に
は何とも言えんえぇ香りがただよいます。

 「駕籠を止めッ!」お殿さんのひと声で、大名行列がピタッと止まる。

◆大槻玄蕃、おらぬか? 大槻玄蕃★はッ、お呼びでございますか◆ん、あ
の宿の表に出ておる竹で作った水仙の花、買い求めてまいれ。余は本陣宿に
て待っておる。よいな。

 大名行列はそのまま本陣宿へと行てしまいます。あとに残ったのがこの大
槻玄蕃といぅお侍で。

★ホンマにうちの殿さん変わってるなぁ、あんなもん買ぉてこいやて、あん
なもんが欲しかったら、わしが何ぼでも作ったんねやホンマに……。亭主、
許せ●へッ、こらお侍さん、なんぞご用で?★拙者、細川の家中で大槻玄蕃
と申す。表に出ておる竹で作った水仙の花買い求める、値(あたい)はいかほ
どじゃ?

●はぁ?★聞ぃておらんのか? 表に出ておる竹で作った水仙の花買い求め
る、値はいかほどじゃ?●あたい? あたいはわたい……★何を申しておる、
値段はなんぼじゃと聞ぃておる●値段でっか、それでしたら作ったやつが二
階にいとりますんで聞ぃてまいります。どぉぞ、こちらの方でしばらくお待
ちを……

●おい、喜びや、買い手が付いたで■ん、で、どんなやっちゃ?●どんなや
つ? 聞こえたら怒られるで、お侍さん、しかも驚きなや、肥後熊本のお大
名、五十五万五千石、細川越中守様■ん、越中が来ましたか……

●フンドシみたいに言ぃないなお前、聞こえたら殺されるで。いや、けどお
前えぇ仕事すんなぁ。表へ出したときはつぼみやったんが、今見たら綺麗な
花が咲いてるがな。竹で作ったもんに花が咲くてな、こら珍しぃ……、な、
相手侍や、ちょっと高こ売ろか? なぁ、一両ぐらいで売ろか?

■一両では売れんなぁ……●「売れんなぁ」て、納まってる場合やないがな
お前、高こ言ぅて売れなんだら何にもなれへんねんで、よぉ考えや、裏、竹
薮や、何ぼでもあんねん、ぎょ~さん作って安売ったらえぇがな。何ぼで売
ろ?■そぉじゃなぁ、ほかの大名なら三百両と言ぃたいところじゃが、相手
が越中のこっちゃさかい、二百両に負けとこか。

●お前が言ぅてこい、お前が。そんなん、とてもよぉ言わんがな「たかが竹
で作った水仙が二百両とは法外なことを申すな」ちゅうて、相手は侍やで、
長いやつ持ってんねん、ズラッと抜いて、こんなとこバサッと落されたさか
いにいぅてお前、秋になったら生えくる松茸(まったけ)とわけが違うねん。

■何ぼ侍といぅても、そぉむやみやたらに人を斬ったりはせん。まぁせぇぜぇ
二、三発どつかれるぐらいや●それが嫌やがな……、え、どぉしても行かん
ならんのん? 悪い客泊めてしもたなぁ、宿賃もらわないかんし、ホンマに
もぉ……

●へッ、お待っとぉはんで★ん、で、いかがであった?●怒ったらあきまへ
んで、怒らんと聞ぃとくなはれな。もしも怒ったときは、怒りをグ~ッと拳
に貯めてでんな、トントントンと二階へ上がって、襖をス~ッと開けて、二
階の客の頭をゴン……★何を申しておる、値はいかほどじゃ?●ほ、ほかの
大名なら「さんふぁうりょ~」ぐらいやなぁちゅうて……

★その方、飯を食っておらんのか、はっきり申せハッキリ●いやあの、ほか
の大名ならもっと欲しぃところやけども、相手が越中のこっちゃさかい★何?
●いや、こらわたいが言ぅたんやおまへんで、二階の客が言ぅとりまんのん
で……、相手が越中なら、これでどぉかと★ん、二十文か?●とほほ~ッ、
ますます話がしにくなった……、に、に……

★なに?●二百両★たかが竹で作った水仙の花、二百両とは、法外なことを
(ベシッ)申すな●い、痛い、い、痛たたたたッ……

●みてみぃお前、どつかれたやないかい。どつかれても買ぉてくれたらえぇ
で、どつかれるわ、帰られるわ、えらい損やがな■心配せんでもえぇ、今の
侍、またここへ帰って来る●何しに帰って来るねん?

■「亭主、先ほどはすまなんだ、物を見る目がなかったんじゃ。金はこのと
おり持って来た、もぉ一度分けて欲しぃ」と●ホンマかいな、何やお前の話
聞ぃてたら、風呂ん中で屁ぇ踏んだよぉな話やなぁ。ホンマに戻って来るの
んかい?

 一方、大槻玄蕃、二百両と言われてムカムカしよって「何が二百両や、あ
んなもんが二百両で売れんねやったら、この道の両側、あんなもんの問屋で
いっぱいになったぁるがな……」

★殿、ただ今帰りました◆大槻玄蕃、ご苦労であった、近こぉ。で、いかが
であった、竹の水仙?★はッ、それが、先方が申すします値段、少々高いよぉ
に思いますので……◆さもあろぉ、で、いかほどじゃ?★はッ……、こんな
んアホらしぃてよぉ言わんわホンマに、宿屋の亭主の気持ちがよぉ分かる……

★えぇ~、ほかの大名なら◆ん、ほかの大名ならば何とした?★ほかの大名
ならばもっと欲しぃところじゃが、相手が……、相手、こんなん言ぅたら殺
されるで……、相手が越中なら◆何?★いや、こらわたくしが申したのでは
ございません。先方が申しておりますので、相手が当家なれば、これでどぉ
かと……

◆なに?「ほかの大名ならばもっと欲しぃところじゃが、相手がこの越中な
れば、これでどぉか」と言われたか。そぉであろぉ、二万両か?★え~ッ?
どないなったぁんねん、うちの殿さん? いえ、あの、二百両。

◆なに、二百両? そのほぉ、二百両が高いと申して買わずに帰ってまいっ
たか。千両、万両積もぉが気が向かねば作ってくれぬ名人の品、もぉ一度戻っ
て買い求めてまいれ。買って帰ればそれでよし、もしも買わずに帰ったとき
は、家は断絶その身は切腹……

★は、はは~ッ!

 一方、宿屋の亭主「最前(さいぜん)の侍、必ず帰って来る」と言われたも
んで、下のほぉで待っておりますと。

●来たきた、ホンマに来たがな、小一升から汗かいてけつかんねん。ふんッ、
今度はそぉ簡単に売ったれへんねんさかい……★亭主、先ほどはすまなんだ。
物を見る目がなかったんじゃ、金はな、このとおり持って来た。もぉ一度分
けてくれ。

●ふんッ、何をぬかすねん、このくされ侍★お前が偉そぉに言ぅな、なッ頼
む、このとおりじゃ、分けてくれ●分けてやってもえぇけど、最前とちょっ
と事情が変わってん★「事情が変わった?」足元見やがってホンマに……、
どない変わった?

●最前二百両やったやろ、けど、お前わいの頭ガ~ンとどついたなぁ。あれ
痛かったんや、せやさかいな、どつき賃に百両増えて三百両★さ、三百両、
よぉそんな無茶なこと……

 と言ぃながらも大槻玄蕃、命には代えられません。三百両といぅ金を置い
て、竹の水仙を持ってほぉほぉのてぇで帰って行きよった。あとに残ったの
が、この三百両と宿屋の亭主。

●えらいもんやなぁ、わずか一文か二文やと思てたんが三百両で喜んで買ぉ
ていきよったがな。といぅことは、あれはえぇ品もんや、な、あのえぇ品も
ん作った二階のあの客、あれただもんやないで。

●わい、こないだからあいつのこと、ボロクソに言ぅたぁんねん、わいの命
も夏場のぼた餅、今日じゅ~持つかいなぁホンマに……、とりあえずご機嫌
伺いにでも行ってこぉ……

●へぇ、お客さん■どっから声を出してんねん? で、売れましたか?●い
え、このとおり三百両で■何、三百両で売れた。わたしが言ぅてたのは二百
両や、この百両はあんたの儲けや、取っといて●えッ、これいただいてよろ
しぃのん?

■取っといてくれたらえぇ。でな、別に二十両、これは宿賃として。え、多
い? 多かったらお上さんに着物の一枚でもこしらえてやっとぉくれ●あッ
さよか、えらいすんまへんなぁ、ぎょ~さんいただきまして。

●けどなぁ、わたいらこんな商売しておりましても、世間のことに疎とおま
してなぁ、さぞかし名の有るお方やと思いまんねんけど、お名前を聞かして
いただくわけにまいりまへんやろか?

■何? わたしの名前か? いやいや、名乗るほどのもんでもないが、まぁ
これも何かの縁じゃ、聞ぃてもらお。わたしはな、飛騨高山の左甚五郎じゃ
●あッ、さよかぁ~、お宅があの有名な甚五郎先生でっかいな。いやいや、
甚五郎先生やったら、あれぐらいのもん作んのん、何ともおまへんやろ……

●あッさよか、甚五郎先生でっかいな。けど、うちの嬶(かか)言ぅてました
で「先生、日に五升から酒呑む」ちゅうて■いやいや、それを言われると辛
いなぁ●なんの辛いことおますかいな。先生やったらね、五升が、一斗でも
呑めまっせ■ん? 何でじゃ?●そぉかて、先生の商売ちゅうたら、大工さ
んでっしゃろ……


【さげ】
●のみ口がしっかりいたしております。


【プロパティ】
 アテ=当て:酒やビールの肴(さかな)。または、食事の副食物。
 玄蕃(げんば)=律令国家にあった玄蕃寮という役所の玄蕃助という官職を
   名前のように使っている。(By Emura さんより) つまり三太夫(貴族・
   大名などの富貴の家で家事・会計をあずかる男の通称。家令。家扶。
   執事)と同じようなものらしいです。
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 けつかる=居る。する。の意の下品な悪態口に用いる語で、ケツカルだけ
   でも「居やがる」の意であるが、さらに他の動詞に付いてその下品な
   言い方になる。サラス・クサル・ヤガルなどと同じ意に使用するが、
   この三つは動詞の連用形に付くのに対して、ケツカルだけはテに接続
   する。してケツカル。言うてケツカル。など。ケッカルともいう。
 最前(さいぜん)=先前とも当てる。ついさっき。今しがた。
 ほぉほぉのてぇ=這う這うの体:今にもはい出さんばかりのようす。ひど
   く恥をかいたり、さんざんな目にあったりして、あわててその場を逃
   げ出すようすにいう。
 ボロクソ=朝飯前・へっちゃら・屁の河童・お茶の子サイサイ。また、ク
   ソミソの意にも用いる。ボロカス。
 左甚五郎=(1594-1651)江戸初期の大工・彫刻師。播磨の人。徳川家の造
   営大工の棟梁。日光東照宮の眠り猫、上野東照宮の竜はその作と伝え
   るが定かでない。なぜ酒好きなのかというと、左利きだそうで……
 音源:桂梅団治 01/04/22 なみはや亭(ABC)

【作成メモ】
 ●参 照 演 者:main=桂梅団治 sub=*
 ●main高座記録日:2001/04/22  ●音  源  名:なみはや亭(ABC)
 ●ファイル公開日:2001/07/08  ●江戸落語相当:*
 ●更  新  日:2010/10/03  ●リクエスト数:rakug269
 ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。
          記録日のmain演者によるさげを採用しました。