文化庁は21日、常用漢字表にある漢字で、同じ訓読みでも、字によって意味が異なる「異字同訓」の使い分け例をまとめて発表した。2010年に常用漢字表が改められて異字同訓の用法が増えたことや、1972年に当時の国語審議会が示した異字同訓のまとめでは用例しか示されていなかったことから、意味の違いも明記して、「使い分け例をみれば判断できるようにした」(文化庁)のが大きな特徴という。
全部で133項目の訓を紹介。「あう」という訓では、「会う」は「主に人と人が顔を合わせる」、「合う」は「一致する。調和する。互いにする」、「遭う」は「思わぬことや好ましくない出来事に出くわす」と意味を示している。
また、文化審議会国語分科会で、「くら(倉・蔵)」「こおる・こおり(凍る・氷)」など、使い分けに困らなくなっていると判断された5項目は削除し、「さわる(触る・障る)」など用法を示した方がいいとされた9項目を加えた。
今回の異字同訓の使い分け例は、文化庁のホームページ(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/bunkasingi/pdf/ijidoukun_140221.pdf)で公開している。
文化庁が21日に発表した『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』の主な抜粋例は以下の通り。*、**は注釈。
●あう
【会う】語義:主に人と人が顔を合わせる。
用例:客と会う時刻。人に会いに行く。駅でばったり友人と会った*。投票に立ち会う。二人が出会った場所**。
【合う】語義:一致する。調和する。互いにする。
用例:意見が合う。答えが合う。計算が合う。目が合う。好みに合う。部屋に合った家具。割に合わない仕事。会議で話し合う。幸運に巡り合う**
【遭う】語義:思わぬことや好ましくない出来事に出くわす。
用例:思い掛けない反対に遭う。災難に遭う。にわか雨に遭う。
*「駅でばったり友人とあった」の「あう」については、「思わぬことに出くわす」という意で「遭」を当てることもあるが、「友人と顔を合わせる」という視点から捉えて、「会」を当てるのが一般的である。
**「出会う」は、「人と人が顔を合わせる」意だけでなく、「生涯忘れられない作品と出会う」のように、「その人にとって強い印象を受けたもの、価値あるものなどに触れる」意でもよく使われる。また、「事故の現場に出合う」や「二つの道路が出合う地点」のように、「思わぬことや好ましくない出来事に出くわす。合流する」意では「出合う」と表記することが多い。
「巡りあう」の「あう」についても、「互いに出くわす」意で「合」を当てるが、「出くわす」ものが人同士の場合には「人と人が顔を合わせる」という視点から捉えて、「会」を当てることもできる。
●あがる・あげる
【上がる・上げる】語義:位置・程度などが高い方に動く。与える。声や音を出す。終わる。
用例:二階に上がる。地位が上がる。料金を引き上げる。成果が上がる。腕前を上げる。お祝いの品物を上げる。歓声が上がる。雨が上がる。
【揚がる・揚げる】語義:空中に浮かぶ。場所を移す。油で調理する。
用例:国旗が揚がる。花火が揚(上)がる*。たこ揚げをして遊ぶ。船荷を揚げる。海外から引き揚げる。天ぷらを揚げる。
【挙がる・挙げる】語義:はっきりと示す。結果を残す。執り行う。こぞってする。捕らえる。
用例:例を挙げる。手が挙がる。勝ち星を挙げる。式を挙げる。国を挙げて取り組む。全力を挙げる。犯人を挙げる。
*「花火があがる」は、「空中に浮かぶ」花火の様子に視点を置いて「揚」を当てるが、「空高く上がっていく(高い方に動く)」花火の様子に視点を置いた場合には「上」を当てることが多い。
●あやしい
【怪しい】語義:疑わしい。普通でない。はっきりしない。
用例:挙動が怪しい。怪しい人影を見る。怪しい声がする。約束が守られるか怪しい。空模様が怪しい。
【妖しい】語義:なまめかしい。神秘的な感じがする。
用例:妖しい魅力。妖しく輝く瞳。宝石が妖しく光る。
●きる
【切る】語義:刃物で断ち分ける。つながりを断つ。
用例:野菜を切る。切り傷。期限を切る。電源を切る。縁を切る。電話を切る。
【斬る】語義:刀で傷つける。鋭く批判する。
用例:武士が敵を斬(切)り捨てる*。世相を斬る。
*「武士が敵をきり捨てる」の「きり捨てる」については、「刀で傷つける」意で「斬」を当てるが、「刃物で断ち分ける」意で広く一般に使われる「切」を当てることもできる。
●さわる
【触る】語義:触れる。関わり合う。
用例:そっと手で触る。展示品に触らない。政治的な問題には触らない。
【障る】語義:害や妨げになる。不快になる。
用例:激務が体に障る。出世に障る。気に障る言い方をされる。
●つくる
【作る】語義:こしらえる。
用例:米を作る。規則を作る。新記録を作る。計画を作る。詩を作る。笑顔を作る。会社を作る。機会を作る。組織を作る。
【造る】語義:大きなものをこしらえる。醸造する。
用例:船を造る。庭園を造る。宅地を造る。道路を造る。数寄屋造りの家。酒を造る。
【創る*】語義:独創性のあるものを生み出す。
用例:新しい文化を創(作)る。画期的な商品を創(作)り出す。
*一般的には「創る」の代わりに「作る」と表記しても差し支えないが、事柄の「独創性」を明確に示したい場合には、「創る」を用いる。
●とかす・とく・とける
【解かす・解く・解ける】語義:固まっていたものが緩む。答えを出す。元の状態に戻る。
用例:結び目を解く。ひもが解ける。雪解け*。相手の警戒心を解かす。問題が解ける。緊張が解ける。誤解が解ける。包囲を解く。会長の任を解く。
【溶かす・溶く・溶ける】語義:液状にする。固形物などを液体に入れて混ぜる。一体となる。
用例:鉄を溶かす。雪や氷が溶(解)ける*。チョコレートが溶ける。砂糖が水に溶ける。絵の具を溶かす。小麦粉を水で溶く。地域社会に溶け込む。
*「雪や氷がとける」の「とける」については、「雪や氷が液状になる」意で「溶」を当てるが、「固まっていた雪や氷が緩む」と捉えて「解」を当てることもできる。「雪解け」はこのような捉え方で「解」を用いるものである。
●とぶ
【飛ぶ】語義:空中を移動する。速く移動する。広まる。順序どおりでなく先に進む。
用例:鳥が空を飛ぶ。海に飛び込む。アメリカに飛ぶ。家を飛び出す。デマが飛ぶ。うわさが飛ぶ。途中を飛ばして読む。飛び級。飛び石。
【跳ぶ】語義:地面を蹴って高く上がる。
用例:溝を跳ぶ。三段跳び。跳び上がって喜ぶ。跳びはねる。うれしくて跳び回る。縄跳びをする。跳び箱。
●はる
【張る】語義:広がる。引き締まる。取り付ける。押し通す。
用例:氷が張る。根が張る。策略を張り巡らす。気が張る。張りのある声。テントを張る。テニスのネットを張る。板張りの床。論陣を張る。強情を張る。片意地を張る。
【貼る】語義:のりなどで表面に付ける。
用例:ポスターを貼る。切手を貼り付ける。貼り紙。貼り薬。壁にタイルを貼(張)る*。
*「タイルをはる」の「はる」については、「タイルをのりなどで表面に付ける」という意で「貼」を当てるが、「板張りの床」などと同様、「タイルを壁や床一面に取り付ける(敷き詰める)」意では、「張」を当てることが多い。
全文は、文化庁のホームページ(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/bunkasingi/pdf/ijidoukun_140221.pdf)で公開している。