放射線
この項目では、物理学における、粒子線・電磁波などの放射線について説明しています。
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放射線(ほうしゃせん)とは、一般的には電離性を有する高いエネルギーを持った電磁波や粒子線のことを指す。広義な意味では電離性を有していない放射線も意味する事があるが、ここでは電離性の放射線について説明する。
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定義 [編集]
英語では "ionizing radiation"(英語発音: /ˈaiənaiziŋ reidiˌeiʃən/ アイァナイズィング・レイディエイシャン)、フランス語では "rayonnement ionisant" と言い、いずれも日本語直訳は「電離性放射」となる。
強い電離作用(原子の軌道電子をはじき飛ばすことによって、原子を陽イオンと電子に分離する作用)や蛍光作用を有する。ただし、紫外線も電離作用を有するが、放射線には含めない。一般的には高エネルギーであることが条件とされるが、中性子線に限ってはどんなに低エネルギーであっても放射線扱いとなることが多い。
放射線を出す能力を放射能と呼び、放射能を持つ物質を放射性物質とよぶ。しかし、しばしばマスコミ報道(主に原子力関連施設の事故)などではこれらの用語が混同されているので注意が必要である。たとえば、「放射能漏れ」と言われる場合の「放射能」が「放射線」を指している場合や「放射性物質」を指している場合があるので、文脈などからよく確認する必要がある。
分類 [編集]
放射線は、以下のように分類される。
また、粒子線のうち特に電荷を持つものを荷電粒子線と呼ぶことがある。
単位 [編集]
放射線の計測単位を次に示す。放射能の強度(単位時間あたりの放射壊変数)は放射能の項に詳しい。
グレイ [編集]
グレイは吸収した放射線のエネルギーの総量(吸収線量)を表すSI単位である。表記はGyである。単位質量当りの物質が放射線によって吸収したエネルギーを表す。この単位はすべての物質、あらゆる放射線に適用される。1グレイ=1J/kgのエネルギー吸収と定義される。
1989年(平成元年)4月以前は吸収線量の単位としてラド (rad) が用いられていた。1グレイ = 100ラドに相当する。
シーベルト [編集]
シーベルトは放射線防護の分野で使われる、人体が吸収した放射線の影響度を数値化した単位である。表記はSvである。吸収線量値(単位、グレイ)に放射線の種類ごとに定められた係数を乗じて算出する。
1989年(平成元年)4月以前はレム (rem) が使用された。1シーベルト = 100レムに相当する。
レントゲン [編集]
レントゲンとは、照射した放射線の総量(照射線量)を表す古い形式の単位である。空気中にX線ないしはγ線を照射すると原子がイオン化される。イオン電荷の総量を計測し、電荷の計測区画に含まれる空気の質量で割った値である。1レントゲンは0℃、1気圧の空気中で、2.58×10-4クーロン/kgの電離を発生させる照射線量。
この単位は国際単位系(SI)に採用されず、日本国では1989年(平成元年)4月の国際単位系への切り替え以降使われなくなった。
ラド [編集]
ラドは、吸収した放射線の総量(吸収線量)を表す古い形式の単位である。表記はradである。単位当りの物質が放射線を吸収し発生したエネルギー(温度上昇)で計測する。
1ラドは0.01J/kgに相当し、国際単位系では吸収線量はグレイ (Gy) で表す。1グレイ = 100ラドに相当する。
レム [編集]
レムは、人体への影響度(被曝量もしくは線量当量)を表す古い形式の単位である。表記はremである。人体が吸収した放射線量(単位、ラド)に放射線の種類ごとに定められた係数を乗じて算出する。
国際単位系では線量当量はシーベルト (Sv) で表す。0.01シーベルト = 1レムに相当する。
放射線検出器の種類 [編集]
放射線は目には見えず熱くもないので、検知するために特別な測定器具を用いる。測定したい線種と目的に応じて適切な器具を選ばなければならない。
- 個人の被曝線量を知るためには、フィルムバッジやガラス線量計が安価・軽量でよい。
- 表面汚染を検出するには、GM・ガイガー=ミュラー計数管などが用いられる。
- 空間線量を測定するには、シンチレーション検出器などが用いられる。
- 放射線スペクトルの分析には、半導体検出器やシンチレーション検出器が多く用いられる。
よく用いられる検出器を以下に示す。
法的規制 [編集]
放射線の障害を防止し、安全性を確保するために日本においては次のような様々な法律で規制されている。
- 原子力基本法
- 原子力の研究、開発及び利用を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保することを目的とする。放射線障害防止法の適用から除外されている核燃料物質はこの法律で規制される(核燃料物質には臨界量が存在し、低比放射能で扱う量が桁違いに多く、他の放射性同位元素と一律の規制になじまない)。
- 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(放射線障害防止法または障防法と略す)
- 一般公衆を含めて放射線障害の防止を図るため、放射性同位元素(除く核燃料物質・核原料物質)と1MeVを超える放射線発生装置の使用・販売・賃貸・廃棄の規制を行っている。
- 電離放射線障害防止規則(電離則)
- 厚生労働省所管。 放射線を扱う事業所で働く人の安全確保のための労働省令。放射線障害防止法では規制されない1MeV以下のX線発生装置も、この省令で規制される。
- 人事院規則一〇—五
- 電離放射線障害防止規則の国立機関版
- 船員電離放射線障害防止規則
- 電離放射線障害防止規則の船員版
- 医療法施行規則
- 厚生労働省所管。 医療分野では治療(放射線療法)という利益があるため、一般の使用とは若干異なった規制を適用する。さらに、薬事法に規定する医薬品としての放射性同位元素は、医療法及び薬事法により規制され、放射線障害防止法の施行令では適用除外とされている(ただし、同じ医薬品でも臨床研究に用いた場合は薬事法が適用されず、放射線障害防止法が適用される)。
- 放射性同位元素等車両運搬規則
- 国土交通省所管。 運搬時の安全と運転者の安全確保を目的とする。 放射線障害防止法と異なり、規制対象に広く核燃料物質も含む。
資格 [編集]
工業利用 [編集]
タイヤ製造 [編集]
タイヤの製造工程の途中でタイヤの形に成形された合成ゴムに電子線を照射して、ゴム分子間に架橋を作り強度を増すのに利用されている。従来、架橋には硫黄が用いられていたが電子線照射によって硫黄のない廃タイヤは(他の問題は残るが)焼却後も硫黄酸化物(SOx)を生じなくなった。
自動車内装品 [編集]
自動車のプラスチック製内装部品の多くには、その製造過程で放射線が当てられている。ドアやシートに使われる緩衝材や断熱材などは、型に入れられたプラスチック基材の外側から放射線が当てられて外形が固められ、その後の加熱処理で内部に発泡を作ることで表面と内部を張り合わせなどを必要とせずに異なった性状で作る事が可能となっている。
自動車電装品 [編集]
自動車のプラスチック製やゴム製の電装品にも放射線が当てられて、エンジンルームなどの高温環境にも耐えられる製品が作られている。
自動車検査 [編集]
製造された自動車の最終検査において人間用の100倍程度の強いX線を使ったCTによって、車体全体を一度に検査することが可能になっている。
医療利用 [編集]
放射線を医療に利用するもの。
放射線療法 [編集]
放射線療法は脳腫瘍、皮膚がんなどの悪性腫瘍を治療するために、リニアックからのX線や電子線・コバルト60によるガンマ線を用いたり、陽子線や重粒子線の照射、あるいは原子炉で発生した中性子を照射する中性子捕捉療法などがある。
輸血用血液 [編集]
日本では2000年以降、移植片対宿主病(GVHD)の予防のために全ての他人血の輸血用血液へ放射線を照射することで、これを引き起こす細胞障害性Tリンパ球を含む血中のリンパ球を壊してから輸血しているために、この病気の実質的な根絶を達成している。
医療衛生器具の殺菌・滅菌 [編集]
従来から医療衛生器具の殺菌・滅菌処理は「高圧蒸気処理」と「酸化エチレンガス処理」が行なわれているが、近年使用が増えるプラスチック製の使い捨て医療衛生用品は高温処理には適さず、また、金属製品でも、高圧蒸気釜での「ベイク処理」には時間・手間・費用が掛かる。酸化エチレンガスを使うには個々の器具を包装する前に行なわねばならず、処理後に酸化エチレンガスが抜けた状態では再汚染の可能性があり、酸化エチレンガスが残留したまま包装すると医療従事者への健康被害が懸念される。
こういった解決索として、コバルト60からのガンマ線照射によって、出荷前のダンボール箱に詰められた形態でも内部を透過する放射線が生み出すフリーラジカルが内部の微生物のDNAやRNAを傷つけ生理活性を失わせることで滅菌を行なう。専用の処理工程がある建物まで対象製品を運ぶ手間を除けば、ベルトコンベアでコバルト60の周囲を一周させるだけの処理は簡便であり、残留物も残らない。特にプラスチック製のチューブでは真空引き処理などの工夫を行なわない限りガスが容易には内部に行き渡らないため、ガンマ線照射の利便性が生かされている。
医療用パッド [編集]
水に溶いたカルボキシメチルセルロース(CMC)のペーストにガンマ線を照射して、柔らかく床ずれ防止に有効な医療用パッドが製作されている。
食品利用 [編集]
放射線を食品加工に利用するもの。ガンマ線を食品に照射することにより、香辛料・ハーブなどの殺菌消毒や、ジャガイモの芽止めなどの処理を行う。食品照射が行われた食品は放射線照射食品と呼ばれる。
農業利用 [編集]
害虫駆除 [編集]
不妊虫放飼法を使った農業害虫駆除に利用されている。
<根絶>
<駆除進行中>
他多数
タンザニアとエチオピアでの不妊虫放飼法を使ったツェツェバエの駆除はIAEAが主導して行なわれている。
品種改良 [編集]
植物の品種改良に放射線照射が利用されている[1]。
テロ対策 [編集]
X線検査 [編集]
アメリカ合衆国をはじめとする多くの出入国管理の現場では、テロ対策の一環として手荷物検査に厳重なX線を使った透視画像検査が行なわれている。
炭疽菌の殺菌 [編集]
アメリカ合衆国での炭疽菌テロ事件以降、50州の全ての郵便局で放射線照射装置によって郵便物の炭疽菌に対する殺菌処理を行なっている。
核物質検査 [編集]
核物質の密輸入などを防ぐために、半導体検出器などを用いた荷物の放射線スペクトルの分析などが行われることがある。
出典 [編集]
- ^ 東嶋和子著「放射線利用の基礎知識」講談社 2006年12月20日発行 ISBN 4-06-257518-3