60年余りにわたって神戸の街を彩り、時を刻んできた「こうべ花時計」(神戸市中央区)が、市役所の建て替えに伴い、11月にも撤去される。移設先は決まっていない。市民の寄付で生まれ、親しまれてきたシンボルを惜しむ声も上がる。
花時計は直径6メートル。JR三ノ宮駅から神戸港へ5分ほど歩いたところにある。
今月6日に新たに植え替えられ、赤や黄、白、緑の花計3千株で「INIESTA」の文字と、背番号8のユニホーム、サッカーボールが表現された。サッカー・スペイン1部リーグの名門バルセロナからJ1ヴィッセル神戸へと移籍したアンドレス・イニエスタ選手を歓迎してのことだ。
花時計は1957年、市役所が現在地に移転したのに伴い、日本初の花時計として誕生した。当時助役だった故・宮崎辰雄元市長が、出張先のスイスなどで花時計を見て、「神戸にふさわしい」と設置を呼びかけた。費用100万円は市民の寄付で賄われた。
95年1月の阪神・淡路大震災では停電で動かなくなり、花時計前の広場には救護用のテントが立った。2カ月半後、「よみがえれKOBE! 頑張れ神戸っこ!!」の銘板とともに、はばたく黄色いチョウが描かれ、再び時を刻み始めた。
同年秋、神戸が本拠地だったプロ野球のオリックス・ブルーウェーブ(当時)が初のリーグ優勝を果たすと、当時の球団マスコットの絵柄に替わり、「感動をありがとう」の文字が掲げられた。
「自然災害で打ちひしがれるのも、自然から元気をもらうのも、また人間」。その年から2年間、花時計の整備に携わった元市職員の高畑正さん(65)は振り返る。「先輩たちが枯らすことなく手入れし、守り続けてきた。我々にとっての心のシンボルです」
設置から半世紀で老朽化した2007年。市が改修費の寄付を募ると、半年余りでほぼ必要額の約650万円が集まった。「ありがとう花時計」「これからも神戸を見守りながら時を刻んでください」。そんな言葉も寄せられた。
花絵は季節や催しに合わせて年に8〜10回模様替えされ、市民が応募したデザインも採用されてきた。今年3月には500回目の変更の節目も迎えた。
市は撤去後、当面は市役所そばの東遊園地に仮設し、年度内にも再び動かす方針だが、東遊園地も再整備の対象で、最終的な移設場所は決まっていない。
今月中旬、花時計前で待ち合わせをしていた同市西区の有政紘(ひろし)さん(75)は「神戸の人間には、ずっとここにあるもんですからね。さみしくなります」と話した