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イトカワ(糸川、いとかわ、25143 Itokawa)は、太陽系の小惑星であり、地球近傍小惑星(地球に近接する軌道を持つ天体)のうちアポロ群に属する。
観測の歴史 [編集]
1998年9月26日、アメリカ・ニューメキシコ州ソコロでマサチューセッツ工科大学・リンカーン研究所の地球接近小惑星研究プロジェクト(LINEAR)により発見された。
日本の小惑星探査機(工学実験宇宙機)はやぶさ (MUSES-C) の探査対象となったことから、宇宙科学研究所が日本のロケット開発の父・糸川英夫の名前を付けるよう命名権を持つ発見者のLINEARに依頼した。LINEARはこれを受けて国際天文学連合に提案、2003年8月6日に承認されて「ITOKAWA」と命名された[1]。
イトカワはアメリカ・カリフォルニア州ゴールドストーンのゴールドストーン天文台によりレーダー観測されており、細長い楕円体に近い形状をしていると推測された(画像参照)。
2005年9月に、宇宙機はやぶさがイトカワ近傍に到着し、可視光での撮影、近赤外線スペクトルの測定、レーザー高度計による測地、および蛍光X線の観測を行った[2]。はやぶさから送られた写真により、イトカワはレーダー観測による予想よりも細長く曲がった形状[3](はやぶさ関係者はラッコ形と表現している[4][5])であることが分かった。
イトカワの自転軸は黄道面に対してほぼ垂直であり、「ラッコ」の腹を北極星側に向けて、地球と逆方向に回転している[4]。
はやぶさはホッピングロボット「ミネルバ」による表面の観測(イトカワへの投下には失敗)と小惑星表面の物質のサンプルリターンを試みた。はやぶさは2010年6月13日に地球へ帰還し、オーストラリア南部のウーメラ試験設備にサンプルが入っている可能性のあるカプセルをパラシュートで降下させた。カプセル内の粒子の回収を進め、明らかに地球由来のものを排除した上で分析を行った結果、1,500ほどの粒子ほぼ全てがイトカワ由来と思われることが同年11月16日に宇宙航空研究開発機構から発表された[6]。
イトカワは「機体が着陸した最小の天体」としてギネスブックにも掲載されている。
物理的性質 [編集]
イトカワはそれまで一般的に考えられていた小惑星の姿とは異なり、表面はレゴリス(砂礫)に覆われた部分と、岩石が露出した部分に分かれている。この違いは、表面重力の違いに応じている。また、特異な岩塊が存在し、最大のものは長さ50mに達する。これらの岩塊は、イトカワにクレーターを作るような天体の衝突では生成しない大きさである。表面にはクレーターも存在するが、このような岩塊のため、サイズや数を把握することが困難となっている。
近赤外線による観測では、イトカワは輝石やカンラン石に特徴的なスペクトルが得られており、普通コンドライトよりなると考えられている。一方、測定された密度は1.90 g/cm3程度であり、従来考えられていたS型小惑星や、地球上の岩石の密度より小さい値となっている。これは、イトカワが内部に多くの空隙を含むためと考えられている。ただし空隙というのが、岩石と岩石の隙間なのか、岩石自体が軽石のような構造になっているのかは不明である。イトカワの空隙率は40%ほどと見積もられている[7]。イトカワの質量中心は幾何学的な重心とよく一致しており、自転のふらつきもほとんど無いため、質量は均一に分布していると考えられる。
イトカワはその特徴的な形状から、より大きな母天体が破砕されたときの破片ではないかと考えられている。一部の研究者は、“ラッコ”の頭と胴体にあたる部分が、それぞれ多数の小さな破片が緩やかに結びついた「ラブルパイル」として集積した後、合体して一つになったと考えている[4]。なお、衝突によってイトカワ表面が融解したような形跡は観測されていない。
軌道の特徴 [編集]
イトカワの軌道
(I - イトカワ、E - 地球、S - 太陽、M - 火星)
イトカワの軌道は、典型的な地球近傍小惑星の軌道進化の途上にある物である可能性が高いと考えられている[8]。
イトカワは現在、地球と火星の軌道を横切るように公転している。そのためこれらの惑星の重力により、軌道はカオス的で不安定となっている。
過去には小惑星帯の内縁部に存在し、火星か木星の重力による影響を受けて現在の軌道に移ったものと考えられている。その後、少なくとも現在より5,000年前からは、現在と同じような軌道を取っていた可能性が高い。
なお、2006年から2007年にかけて地上観測およびはやぶさの観測により得られた形状モデルによるライトカーブのモデル計算とを比較した結果、天体の熱放射により自転周期が変化するYORP効果が確認された[9]。
イトカワは2010年から2178年までの間に5回、地球に大接近する。最接近時の距離は約370万kmから約700万kmである[10]。将来的には、1億年のうちに太陽か、水星、金星、地球、火星のうちいずれかに衝突して消滅するだろうと考えられている。
地名 [編集]
イトカワに確認された主要な地形や岩塊、クレーターなどには日本の宇宙開発や「はやぶさ1」ミッションにゆかりのある名前が多く提案されている[11][4]。このうち公式に承認されたものはUSGS: Itokawa nomenclature[12]に一覧されている。
クレーター [編集]
地域 [編集]
地名 | 英語表記 | 由来と解説 |
アルコーナ |
Arcoona Regio |
オーストラリアの地名。「はやぶさ」のカプセル回収地であるウーメラの近くである。かつて「ウーメラ砂漠」として提案されたが、他の天体の地名に使われていたため却下された。そのため初期の文献では "Little Woomera" 等と表記されていることがある。 |
LINEAR |
LINEAR Regio |
リンカーン地球近傍小惑星探査。地球近傍小惑星サーベイプロジェクトであり、イトカワを含め数多くの小天体を発見している。 |
MUSES-C |
MUSES-C Regio |
「はやぶさ」の開発時の名称。「ミューゼスの海 (Muses Sea)」として提案されていた。そのため初期の文献では "Muses Sea" と表記されていることがある。イトカワ最大のレゴリス地域で、「はやぶさ」着陸ポイントがある。 |
大隅 |
Ohsumi Regio |
大隅半島。内之浦宇宙空間観測所の所在地。 |
相模原 |
Sagamihara Regio |
神奈川県相模原市。JAXA相模原キャンパスがある。イトカワ北極周辺のレゴリス地域。 |
内之浦 |
Uchinoura Regio |
鹿児島県内之浦町。現在は合併して肝付町の一部となっており、内之浦宇宙空間観測所にその名前を残している。「はやぶさ」を打ち上げるときに利用した射場でもある。 |
吉信 |
Yoshinobu Regio |
鹿児島県熊毛郡南種子町の地名。種子島宇宙センターの射場がある。 |
脚注 [編集]
関連項目 [編集]
外部リンク [編集]