日本中が沸いた1970年の日本万国博覧会(大阪万博)。盛り上げ役としてタイから16頭のゾウが船で神戸港に到着し、なんと歩いて大阪府吹田市の万博会場へ大行進をした。当時の神戸新聞をひもとくと、お祭り騒ぎの様子が伝わってくる。
「そこのけ、そこのけ象のパレード」
1970年8月3日付の神戸新聞夕刊は大きな見出しで、大阪万博会場へ向かって行進する16頭のゾウの様子を伝えている。タイのナショナルデーに合わせて開かれる「象祭り」に参加するため神戸港に上陸。当時、同港は世界有数の国際貿易港だったが、大型トレーラーなどは普及しておらず、歩かせることになったという。
当時の記事や写真によると、ゾウは7月20日にフェリーに乗ってタイ・バンコクを出発。途中、船の中で暴れて引き返したこともあったが、8月3日に到着した。現在のフラワーロードを北上し、山手幹線を東へ。道路沿いには人垣ができ、ゾウが子どもの帽子を鼻で取るハプニングもあったという。
「今でいう大ニュースですわ」。当時、神戸新聞写真部記者としてゾウの行進を追いかけた則本修美さん(74)は振り返る。最も印象に残っているのは武庫川での水浴びという。「夏の道路は照り返しが厳しかった。川にざぶんと入って気持ちよさそうにしているのを見てホッとしましたね」
ゾウたちはそのまま河原で野宿。周りは人でごった返し、即席動物園のようだった。翌日には無事、万博会場に到着。兵庫県警と大阪府警の集計では見物客は約20万人に達した。神戸市立王子動物園の元園長で神戸動植物環境専門学校(神戸市東灘区)非常勤講師の石川理さんは「タイのゾウの行進に呼応してか、王子動物園のゾウもずっと鳴いていたと先輩から聞いた」。
ちなみに前身の諏訪山動物園が1950年に閉園した際も、やはりゾウだけは王子動物園まで歩いて移動したという。
万博では子ゾウも生まれ人気者に。ゾウは約1カ月後の9月に同じ道を引き返し、神戸港から帰国した。(鈴木雅之)